BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
設計担当 曽根大地×企画担当 稲吉太郎
【設計担当】曽根大地
【企画担当】稲吉太郎
ガンプラ45周年における最大の注目アイテムとして2月に開催された「GUNDAM NEXT FUTURE FINAL in TOKYO」で商品化決定の発表がなされ、5月の「第63回静岡ホビーショー」にて光造形による試作が披露されたことで全貌が明らかとなったPERFECT GRADE UNLEASHED RX-93 νガンダム(以下、PGU νガンダム)。PGというカテゴリーのなかでも最大級となったボリュームと仕様が盛り込まれた、まさに現在のガンプラの集大成ともいえるアイテムには、どんなこだわりがこめられているのか? BANDAI SPIRITS ホビーディビジョンにて設計を担当した曽根大地氏と企画を担当した稲吉太郎氏に話を伺った。
(聞き手/石井誠)
PGU第2弾アイテムにνガンダムが選ばれた理由
――ガンプラ40周年に発表さた「PGU」の最初のアイテムであるRX-78-2 ガンダム(以下、78ガンダム)の発売から5年を経て、第2弾アイテムがνガンダムであると発表されました。どのような思いからPGUの第2弾にνガンダムを選ばれたのでしょうか?
稲吉 PGU第1弾である78ガンダムはガンプラ40周年記念アイテムであり、「PG UNLEASHED」という新ブランドの立ち上げということで選ばれたものでした。それから5年が経過したガンプラ45周年という今回のタイミングは、まず第1弾アイテムを超えなければならないという命題がありました。40周年で発表したのがアムロ・レイが最初に乗った機体だったならば、今回のPGUはアムロが最後に搭乗したとされるモビルスーツにすることでガンプラの進化をより大きく感じてもらえるのではないか? そういう思いから、νガンダムを選ばせてもらいました。
――何か技術的な進化を見せるためにνガンダムを選んだのではなく、νガンダムでPGUにトライすることに重きが置かれたということでしょうか?
稲吉 技術的なトライと機体選びのどちらかを重視したというよりも、同時に考えたというのが正しい言い方かもしれません。PGUの進化ということで、78ガンダムの先を見ようとすれば、ガンダムMk-ⅡやΖガンダムという選択肢もありますが、そのなかでもわかりやすく進化を見せられるのがνガンダムではないかというのが大きなきっかけです。また、1/60スケールのνガンダムはこれまでのガンプラではやってきていなかったので、その存在感を今の技術で実現させたいという思いもあり、まさに機体選別と技術的なトライアルが同時並行で連なりあっているというのが企画の入口でした。
――開発はどれくらいからスタートしたのでしょうか?
稲吉 コンセプトなどを含めると5年くらいかかっています。とはいえ、少しずつ準備をしつつ、仕様を煮詰めて実際に開発を行ったのは、後半の2年くらいです。それくらい長期スパンでやらせていただきました。
曽根 商品化するアイテムの決定後、最初に関係者が集まって、いろいろと「これをやりたい」という絵空事を語るところから開発を始めています。そのあとは、開発や設計などの各部署の担当者が月に1回程度集まって「僕らだったらこういう構造をやりたい」、「こういう資材があるから使ってみたい」というものを持ち寄って話し合い、だんだんと実現に向けた解決案や「こういうやり方があるよ」という具体的な話を詰めていくという感じです。私の記憶だと、2023年9月頃に本格的にまとまって、動き始めたことを覚えています。
――曽根さんは設計側として、νガンダムがPGUの第2弾になると聞いたときにはどのような感想を持たれましたか?
曽根 私はRG νガンダムの設計を担当していたということを踏まえて今回の商品設計に関わっているのですが、正直に言うと「本当に1/60でνガンダムをやるんだ? やれるのかな?」と思いましたね。RGのときもそうだったのですが、とにかくνガンダムはフィン・ファンネルが鬼門なんです。RGでさえ接続や固定に苦労したのに、1/60サイズだったら絶対に無理だろうと思っていました。当初は自分が設計を担当するとは思っていなかったので、「やる人は大変だな」と思っていた感じだったのですが、まさかその後、我が身に降りかかるとは想像もしていませんでした。そこからずっと「フィン・ファンネルをどうしよう」と考え続けていましたね。コレクターズ事業部の「解体匠機」のνガンダムはRGと同じくらいの発売時期だったので、あのサイズでどうやってフィン・ファンネルを保持しているのか気になって、当時コレクターズ事業部の開発担当の方に話を聞きに行ったことがあるくらいでした。
稲吉 私は設計を担当してくれるのが曽根さんだと聞いて、実はすごく安心していました。RG νガンダムの設計を担当されていたので、どのようにνガンダムを表現すべきかよくわかっている方ですし、一方で、私が中学、高校生でガンプラを買っていた頃から設計をされ続けている大ベテランの方ということもあって、安心して頼ることができるなと思いました。
曽根 私自身は、担当することが決まってからはずっとフィン・ファンネルの取り付け方が気になっていました。自分ひとりだと解決できない課題なので、社内にいる設計担当の人たちに、フィン・ファンネルを取り付けるにあたってのいい案がないか募集したりもしました。それくらい難しい課題だったと思います。
PGU νガンダムの実現に立ちはだかるフィン・ファンネルの壁
――商品企画は稲吉さんが担当されたわけですが、どのような方向性を考えて仕様や内容を決めていったのでしょうか?
稲吉 基本的には「1/60サイズでできることは何なのか?」ということを落とし込んで企画を進めて、3つの商品の打ち出しポイントを提案しました。ひとつ目は「アルティメットユニットシステム」。1/60サイズのパーツ分割だからできる、フレームやユニットごとに組み立てができるパーツ構成や仕様をこのように呼称しています。ふたつ目がガンプラ45周年の集大成アイテムということで、二次加工済みのランナー、金属パーツ、リード線などを使った表現を投入することで密度感を上げていること。3つ目は私がコレクターズ事業部出身だということで提案した、組み立て後の遊び様です。LEDギミック、ハッチオープン、そしてポージングというディスプレイをしていても楽しめる要素になります。
――可動も含めて1/60スケールというサイズ感がひとつの大きなポイントではあるわけですね。
稲吉 そうですね。完成時は結構な大きさになるので、ものすごくたくさん動かすというよりも、1/60サイズだから映える部分を意識し、1/60サイズだとダメになってしまうところをケアした可動を考えています。特に足腰に関しては、教科書のような整えでアプローチしてくださっています。
――そのなかでも重要なのがフィン・ファンネルの保持なんですね。
稲吉 フィン・ファンネルは設定通り、バックパックから平行に近い角度で取り付けることができるのですが、1/60サイズになると巨大な板が横に並んで付いているのがものすごく野暮ったく見えてしまうんです。そこで、ここには私のワガママを曽根さんに伝えて叶えてもらった機構が入っています。接続されたフィン・ファンネルは、基部で湾曲するようにしていただいて、設定通り横に平行に並べて取り付けることができるのに加え、身体に沿わせたり、少しずつ角度を付けるなどのちょっとした色気を出して飾ることができます。フィン・ファンネル自体がただでさえ重くて、嵌合もさせないといけないのに、そこにも可動軸を入れ込む。そうするとさらに重くなってしまうわけです。まさにやりたいことと実際のものづくりが完全に矛盾というか、相反する要素なのですが、そこに今のホビーディビジョンの技術を凝縮した構造をかたちにして、設計に落とし込んでいただきました。
――νガンダムは映画制作時、設定を作っていくにあたって「マントを付けたガンダム」というコンセプトがあったわけですが、まさにそのイメージを表現しているところでもあるわけですね。
稲吉 私自身も開発担当としてνガンダムについていろいろと勉強しているなかで「マントを付けたガンダム」というコンセプトがあったと聞いていたので、今回のPGUではそういった要素もぜひ組み込んでみたいと思い、この機構は強く進言させていただきました。さらに、シールドに関しても取り付け部分に可動軸を仕込んでいただきました。シールドも設定通りだと腕に平行に付けるかたちになってしまうので、1/60サイズだと直角にシールドが固定されるとやはり野暮ったくなってしまう。そこで基部で可動することで微妙に角度を調整でき、干渉を回避させることができるようになっています。そういった1/60で飾ることを意識した細かい可動域がふんだんに詰め込まれています。
完成見本を撮り下ろし!
インタビュー時に静岡ホビーショーでも展示された完成見本をその場で撮影することもできたので紹介していこう。
▲ 力強いフォルムとパネルラインでの色分けや細かなメカモールドによる造形密度の高さが目を惹く。ところどころに配置されているゴールドやシルバーのパーツはメッキやメタリック成型などを駆使して表現されるようだ
▲歴代νガンダム立体物のなかでもトップクラスに精悍な表情。鋭く伸びたブレードアンテナ、切れ長のツインアイ、やや面長なフェイスマスク、ダクトなど奥まった部分のメカモールドなど、頭部だけでも見どころが詰まっている
▲同スケールで地球連邦軍制服姿のアムロ・レイ、チェーン・アギのフィギュアが付属