富野由悠季監督一問一答









■会場を目の当たりにしてどう思うか?
原画ひとつとっても、並べられて、他の作品と対比できることによって、制作当時と印象が全然違う。その時その時で良いスタッフが手伝ってくれたから、まさに「富野由悠季の世界」展ができているんだと教えてもらえたので、やはり人との出会いってとっても大事なんだなってことを痛感させられました。
■自分の名前の展覧会をどう思うか?
嫌なもんですよ。大人の世界の嫌味を受けているんじゃないかと思ったんですけど、声をかけていただけたことに関してだけは嬉しいです。
美術館という日常でない空間に作品を並べられた時に、制作スタジオで見ていた時のプランニングや絵の見え方と異なり、人との関係性が創作の世界を作っていると思い知らされました。こういう異空間でやってもらうことにより、そういう自覚を手に入れることができたというのは、感謝しています。自分自身が、見間違わないで、自分のできることを死ぬまでやらせてもらえるようにしたいと思います。
■ご自分で描いた絵コンテやラフ画がたくさん展示されていますね
絵描きにもなりたいと思った瞬間もあって、挫折したという精神的なキャリアも重々承知していますので、そういうものを見るのはとても嫌です。この嫌悪感は、なまじでないくらい嫌です。だけれども、異空間の中で対比させられている時に、比較することができるんです。絵描きとしての自分の悟性の問題じゃなく、ディレクターの目線を自分の中に持てているから、比較論で冷静に見られるんです。「これは人に見せるものではなく、ディレクションの方向性を示すためのものなんだ」と、認識論として容認はできます。
■安彦良和さんの原画なども展示されていますが?
ディレクターの目線は、そういう意味で凄まじいですよ。間違いなく自分より技量が上で、正確に絵コンテの意味を読み取って作画してくれている安彦というアニメーターは偉い、という風に判定ができるんです。しかし、安彦・湖川レベルの絵を描いてもらわなければ困るという基準にもなっちゃう。それは大変ですよ。
■来場者へメッセージを
館長から「今日来ているファンは、ふだん美術館に来ない人です。そういう方々が来てくれてとても嬉しい」と言われて正直ホッとしました。絶対に面白いはずだから、親族・一族郎党、女房子供を連れて来てください。「高邁な哲学が含まれているかもしれないから、『富野由悠季の世界』見に行った方がいいよ」と広めて欲しい。
■最新作は?
この1年、映画版の『ガンダム Gのレコンギスタ』を編集していたんですが、付け加えたことがあります。それはこの展覧会には入っていないのですが、これは現役の矜持です。付け足し分は、次の会場で追加されるかもしれません。
■福岡で開催されることへの想い
『機動戦士ガンダム』は名古屋テレビ発で、ある人に「名古屋から始まったガンダムが今回の展覧会で福岡まできて、一巡しましたよね」と言われてハッとしました。流行・芸能というのはみんな地方発なんです。これでようやくいっちょ前になるかな、といううぬぼれもあります。富野流の言い方をしますと、八百万の神が背中を押してくれている、という実感があります。