
1989年に富野由悠季氏が執筆した小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』でメカデザインを手がけた森木靖泰氏、2021年5月7日より全国で公開される劇場版のメカニカルデザイン、そして「ROBOT魂(Ka signature) <SIDE MS> ペーネロペー(機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ Ver.)」のプロデュースを務めたカトキハジメ氏の対談を掲載!
※この対談は「月刊ガンダムエース」2016年4月号(KADOKAWA)に掲載された内容を再構成したものです。アニメーションや最新の設定とは異なる部分がありますが、掲載時のままとしています。
小説の挿絵として手がけた『閃光のハサウェイ』のMS
カトキ:森木さんはどういう経緯で、小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』でイラストを担当されたのでしょう?
森木:当時、(アニメスタジオの)AICの荻窪スタジオにほぼ住み込みで働いてまして、そこによく来られていた角川書店の編集さんがいて、その方の紹介だったと思います。Ξ(クスィー)ガンダムに関して、スニーカー文庫の担当編集さんからうかがっていたのは、「ファンネル・ミサイルを装備する」と「ミノフスキー・クラフトで飛べる」という2点だけでした。あとはもう自由で(笑)。いわゆるアニメ作画用の設定ではなくて、小説のイラストとして描いてました。
カトキ:富野さんとは打ち合わせをしなかったんですか?
森木:担当編集さんとのやりとりのみでした。最初、富野さんからチェックが入るかなと思っていたんですが、まったくなかったですね。
カトキ:MSはΞガンダムを含めて4種類、描いてますね。
森木:いわゆるガンダム系2機と、量産型MSで敵味方ですね。
カトキ:敵味方でデザインなど何か指示はあったんですか?
森木:それも最初からあったのかは定かではないですね。当時は、量産型MSというと連邦とジオンのイメージしかなかったから、ハサウェイ側をザク系、キルケー部隊側をジム系にしました。
カトキ:ハサウェイ側のメッサーはジオン系でありつつも、ザクのデザインからはわりと外してますよね。
森木:事前に小説を読んで描いていたわけじゃないので、あくまで〈俺節〉MSですね。
カトキ:まさか『閃光のハサウェイ』が『逆襲のシャア』の後の物語であることを知らされず描いたなんて事は?
森木:それは知っていたと思います。
カトキ:時代背景は意識されてますよね。Ξガンダムのふくらはぎの処理などにνガンダムとの共通性を感じます。
森木:ガンダム作品はずっと見てましたし、『逆襲のシャア』も劇場に見にいきましたから、無意識のうちにデザインに影響が出ちゃっていても不思議ではないです。『ガンダム』をデザインする以上、〈お約束ごと〉もありますから。
カトキ:デザインによってオーソドックスなラインから外すことに比重を置く場合と、むしろ寄せていくことに比重を置く場合に分かれる傾向があると思います。
森木:当時は幾分、気楽にやっていたふしがあって、自分で思う〈カッコイイ〉ガンダムっていうことだけでしょうね。
カトキ:当時は「ガンダム」が現在の様な巨大なコンテンツに成長する前でしたから、MSデザインに対する意識が今とは少し違っていましたよね。

富野由悠季氏が1989年に執筆した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、『逆襲のシャア』以後の宇宙世紀を舞台にした小説作品。小説に登場する新型のMSを森木氏がデザインし、イラストも収録されている(表紙、挿絵は美樹本晴彦氏)。
ゲームへの登場を機にリファイン
カトキ:ペーネロペーからフライトユニットが分離して飛行形態になるギミックは、デザインの日付が新しいようですが。
森木:2000年発売のゲーム「SDガンダム G GENERATION-F」にΞガンダムとペーネロペーが登場することになって、サンライズさんから「ペーネロペーのフライトユニットを分離させてほしい」というオーダーがあって。小説のときはそんなこと考えてなかった(笑)。
カトキ:そうなんだ。すごくナチュラルに驚きです(笑)。
森木:慌ててですよ。デザインをまとめ直しつつ、本体のオデュッセウスガンダムとフライトユニットの分離合体も盛り込んで。かなり破綻してますけどね。
カトキ:小説を読むと、フライトユニットに関する描写があるんですよね。
森木:全然知らなかったです。
カトキ:小説の挿絵にはギミックは描かれてないから、ファンにしてみれば「どうなってるのかな?」と長い間の疑問だった。だから分離ギミックを後から設けたのは、ペーネロペーのデザインを作品になじませる点でも、とても良い感じではないでしょうか。
森木:ありがとうございます。
カトキ:2012年稼働のアーケードゲーム「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス フルブースト」の時には更にデザインを追加したんですね。
森木:「Ξガンダムにミサイルポッドを付けてほしい」というオーダーでした。これも具体的な指示は特になかったですね。MSの追加武装だと背中とか足に装備するのが普通だと思うんですが、それだとありふれているとも言えるので、どうしようかなと考えたときに、尻尾にしちゃおうと(笑)。
カトキ:そのへんがやっぱり森木さんらしいところですよね。いい意味で〈怪獣〉っぽい。アイデアの引き出しが、スタンダードなガンダム系MSとは違うところにある感じがします。2016年に発売したΞガンダムでもミサイルポッドを装備させたんですが、大きすぎました?
森木:尻尾にも3番目の足にも見えるような形にしているので、大きいほうがいいと思いますよ。
カトキ:さっきも言った〈怪獣〉っぽさを生かしたいなぁと思ったんですよ。単体のΞガンダムを見ても十分〈怪獣〉っぽいんですけど、ペーネロペーと並んだときにシルエットのボリュームとして、もうちょっとあってもいいかなという感じがして。
森木:〈怪獣〉っていうのは言い得て妙で、ペーネロペーなんかは特にそうで、ラスボス的なイメージはあったと思いますね。知り合いからは「何、あのドラゴンガンダムは?」とかいろいろ言われましたけど(笑)。まだ『Gガンダム』が放送される、はるか昔の話ですけれどね。
カトキ:私も当時ショック受けたクチです(笑)。Ξガンダムとペーネロペーは今の目で見ても飛び抜けて個性的ですよね。
(※2015年12月末日に収録)