グッドスマイルカンパニーが展開するプラモデル「MODEROID」にて、「機動警察パトレイバー」に登場するシャフト・エンタープライズ製レイバー「TYPE-J9グリフォン」が8月20日に発売となった。
「機動警察パトレイバー」のコミックやアニメで、特車二課のパトレイバーと死闘を繰り広げた“黒いレイバー”の1/60スケールでのキット化となる。作品では主役機のAV-98イングラムと人気を二分する機体で、これまでもフィギュアやプラモデルで数多く立体化されてきた。
MODEROIDシリーズでも比較的早い段階での発売となったわけだが、発売直後にパーツの不具合が発見され、一時的に店頭から回収される事態となった。約1カ月の期間を経て、改修パーツを用意した製品が再出荷され、購入者にはパーツが送付される対処が取られた。現在流通しているキットは不具合なく安心して完成させられる状況となったので、この機会にレビューをお届けしたい。
今回のレビューで製作したのは、グッドスマイルオンラインショップ限定で販売された「MODEROID TYPE-J9グリフォン フライト&アクアユニットセット」だ。通常版「「MODEROID TYPE-J9グリフォン」にアクアユニットのパーツを追加したもので、差し替えにより、2つのスタイルを選べるものだ。筆者のもとにも交換用パーツは届いているので、それを反映させた状態でレビューをお届けしていく。
光沢のあるパーツ成形で、黒光りするグリフォンのボディを再現
TYPE-J9グリフォンは、シャフト・エンタープライズ・ジャパン企画7課と同社土浦研究所によって開発された実験用試作レイバーで、既存のレイバーシステムとはまったく異なるコンセプトの元に設計された機体。機体そのものの販売ではなく、技術開発の目的により採算度外視で開発されていて、他のレイバーとの互換性は一切なく、パワー、スピード、マニピュレーターの繊細さまで、全てが規格外の性能を持っている。OSには城南工科大古柳研究室が開発した幻の「ASURA」を搭載。このOSはレイバーに生物のような動きを可能とさせるが、それと引き替えに機体に大きな負担をもたらす。(参考:機動警察パトレイバー公式サイト)
搭乗者はバドリナート・ハルチャンド。企画7課内海課長らの計画で、機体性能のデモンストレーションのために小笠原での自衛隊と米軍の合同演習を襲撃。その後、東京晴海での東京国際レイバーショー会場に現れ、篠原重工の新型レイバーAVS-98及び、第2小隊のイングラム2号機と格闘戦を繰り広げ、背中のフライトユニットを使って現場から飛行離脱した。以降第2小隊のイングラムを標的としたレイバーテロを引き起こし、最後は1号機と激しい格闘の末に敗北し、証拠隠滅のために自爆した。
作品を代表する悪役レイバーであり、その姿も一般的な作業用レイバーとは大きく異なっている。2足歩行型でありながら、頭部後方に大きく突き出したアンテナや、曲線によって構成された手脚、そして背中の巨大な翼など、その名を表す空想上の怪物を思わせるシルエットだ。背中に装備された翼のようなフライトユニットは緊急離脱用の飛行装置で、アクアユニットにも換装でき、水中での活動も可能としている。
今回キット化されたグリフォンは、MODEROIDパトレイバーシリーズのスケールに合わせた1/60スケール。パーツは黒とブルーグレー、クリアの3色成形で、今回扱っている限定版に付属するアクアユニットにのみ、イエロー成形のパーツが採用されている。メインの黒のパーツは艶のある成形で、グリフォンの魅力である黒光りする機体を再現。胸部のマーキングには塗装が施されている。
組み立ては頭部から開始。カメラのモールドが造形された内部パーツに外装を取り付けていくわけだが、今回不具合があったのが、頭部前面の顔にあたるパーツだ。グリフォンの眼であるバイザーの溝が欠けていて、見栄えが悪いだけでなくクリアパーツがしっかり固定されないという弊害もあった。なおこのクリアパーツはクリアレッド塗装と未塗装のものが付属している。
続いては胴体。胸部には首、肩、腰の関節を内蔵。それぞれは前方へのスイング機構があり、完成時の可動範囲を広げている。胸部の意匠は塗装された部分とともに、裏からはめ込む別パーツで対応している。腰部の股関節はイングラムと同様、上下にスライドする機構が備わっている。なお腰回りのランプは未塗装で、シールなどもないので、簡単に塗装してみるといいかもしれない。なおパーツはABSなので、塗装には水性塗料をオススメする。
手脚の組み立てには特別難しいところはない。肩と手首は二重関節で、より細かい動きを可能としている。足首内には内部シリンダーが造形されていて、足首の動きと連動して可動する仕組みだ。腕や脚、腹部などのシーリングは、イングラム同様、パーツ成形によるものだ。
グリフォンフライトタイプのトレードマークである翼は、ジョイントを2枚の翼パーツで挟み込む設計で、単独でも上下にスイング可動する。これをセットするバックパック側の軸も可動するので、劇中の離脱時に見せた翼を大きく開いた姿も再現できる。一方限定版付属のアクアユニットは、本体側には可動部がなく軸の可動に依存している。
可動は非常に優秀。ただし大胆なポーズを付けたいならば、接着が必要かも
全てのパーツが完成したらあとは組み立てるだけだ。プラモデルとしては久しぶりの発売となった令和のグリフォンであり、プロポーションもバツグンだ。黒光りするボディは塗装なしでも写真程度には艶があり見栄えもいい。アンテナ、手足の各所、平手、翼など鋭く尖っていて、シルエットを崩していないのも大きなポイントだ。
可動は組み立ての解説で触れているように二重関節が所々に存在していることもあり、範囲はかなり広い印象だ、ただしデザインの関係上干渉するところも多く、劇中の生き物のような動きを付けるには少々コツがいる。無理をするとパーツが外れてしまうこともあり、特に肩と上腕の付け根は、上腕側の2つ合わせたパーツで肩ジョイントのダボを受ける設計のため、非常に外れやすく、ポージング時にすぐに外れてどうにもストレスが溜まってしまった。完成後アクションフィギュアのように動かしたいのなら、思い切って接着してしまうのもありかもしれない。
また立体化されたグリフォンの共通する弱みとして、フライトユニットによる重量バランスの悪さがあり、動きのあるポージングを楽しむにはスタンドは必須だ。公式には別売りの「THE シンプルスタンド」に対応していて、キットには専用のジョイントパーツも付属している。
発売からいきなり不具合のトラブルに見舞われた製品であったが、その後のアフターケアが確実だったのはよかった。ユーザーもホッとしたのではないだろうか。プロポーションや可動も申し分なく、組み立てに難しいところもなかった。価格がやや高め、塗装パーツが少ない、パーツの一部が外れやすい、アクアユニットが限定アイテム、といった点が気になるところであったが、それでも個人的には満足している。
これまでの「機動警察パトレイバー」シリーズの立体化は、イングラムの次にこのグリフォンが発売されて打ち止め、というパターンが多かったが、このMODEROIDは現在もシリーズ続行中。待望の「AV-0ピースメーカー」も発売され、大型レイバーの「HAL-X10」も2022年5月に発売が予定されている。以降のラインナップも気になるところだが、まずは現在発売・発表済みのこれらキットを楽しんで、次へと繋げていただければと思っている。