ガンプラ30 周年の2010 年に、「1/144スケールのガンプラ最高峰」ブランドとして誕生した「RG(リアルグレード)」。その第1弾アイテムとなったのが、当時東静岡に移設された実物大ガンダム立像を、最新技術を組み込んで1/144スケールで再現したRG RX-78-2 ガンダムだった。あれから14年が経過し、「ガンダム45周年」に合わせる形で、RG RX-78-2 ガンダムも最新の技術と新たな試みが詰め込まれたVer.2.0が発売。そこで今回は、BANDAISPIRITS ホビーディビジョンの西澤純一氏、大久保宏昭氏という、新旧RG RX-78-2 ガンダムの開発担当者による対談を実施。RGというブランド立ち上げ時の思いから、ガンプラとしてのリアルの解釈、継承して進化したVer.2.0への道のりを語ってもらった。
聞き手・文/石井誠
——ガンダム45 周年に合わせる形で、RG RX-78-2ガンダム(以下、78ガンダム)がVer.2.0として新規に発売されました。まずは、改めて、RGシリーズの原点となった最初のRG ガンダム(以下、Ver.1.0)の当時のコンセプトを振り返りたいと思います。Ver.1.0の企画はどのようにスタートしたのでしょうか?
西澤 2009年の「ガンダム30周年」に合わせてお台場に実物大のガンダム立像が建てられた際、翌年には「ガンプラ30周年」が来ることが分かっていたので、そこに向けて最高峰のガンプラを出しましょうというところから企画がスタートしました。今までは想像だけだった実物大のガンダムをお客さんがすでに目にしているという状況だったので、まずはそれをどのように商品に落とすかということを考えた感じではありましたね。
——そこにそれまでガンプラ開発で培われた技術的な面も追加されたわけですね。
西澤 当時、ガンプラの技術もいろいろと進化していた時期で、ガンプラの周年をやるなら、一度すべての技術をひとつのアイテムに使ってみようという考えがありました。そこで、多色成型やインサート成型などを取り入れようという流れになっていったんです。特に組み立てやすさみたいなものを目指すとなった時に、内部フレームを一体化したものを作ってみようということを考え始めまして。そこからインサート成型を使ったアドヴァンスドMSジョイントを組み込むという流れになりました。
——アドヴァンスドMSジョイントの採用は、RGからガンプラに触れる新規ユーザーを意識したアイデアだったのでしょうか?
西澤 そうですね。1/144スケールというのは決まっていたので、小さくなるぶん組み立てが難しくなっていくというか、時間がよりかかってしまう。そこで、どこかで簡単により精密なものを作り出せないかなと考えていたんです。また、かつてのガンプラに採用されていた組み立て済みのフレーム「MSジョイント」があったので、その流れから「アドヴァンスドMSジョイント」と名前を変えて、新しく作り直したという形です。
——当時のイメージとしては、マスターグレード(MG)シリーズの縮小版を目指しつつ、それに合わせてプラの成型の薄さや精密さを出すというふたつの要素が盛り込まれているように感じていました。
西澤 当時のMGはフレームを作って、そこに外装を付けていくという感じで、組み立て時間が2 倍かかるという印象があったんです。その結果、ハイディテールのいいものが完成するのですが、それをランナーから切り離すだけで内部フレームができ上がる機構を取り入れることで簡略化して、合わせて作りやすさも目指せないかと考えていった感じです。
——当時、大久保さんはVer.1.0をどのように見られていましたか?
大久保 元はホビー事業部(現ホビーディビジョン)にいたのですが、当時はベンダー事業部に異動していて、ガンダム商品の開発を担当していました。そこで、商品開発の参考にするのはホビーディビジョンの商品だということで、目玉となるアイテムはだいたい組んでいて。Ver.1.0ももちろん組み立てましたし、「1/144でここまでできるんだ」と驚いた記憶があります。
——当時としては、精密さを含めてかなりこだわられた設計になっていた印象があります。
西澤 かなり攻めた商品ではありましたね。「精密ってどういうことなんだろう?」という感覚があって、それを伝えるのに、ディテールの細かさにこだわりました。コンマ1とか0.05くらいのものすごく幅の狭いディテールをどんどん作っていくという感じで。実物大のガンダムを見ると、パネルラインなども動かし方に合わせて幅がいろいろ違っていたりするのですが、1/144のサイズに落とした場合、ここまで見えていていいのか、閉じているべきかみたいなせめぎ合いはありましたね。写真と見比べながら、「ここはもうちょっとこのくらい細かい段差にしたほうがいい」などとやっていました。それは、実物があるからこその悩みで。マーキングの数も多くて、実物大だと普通に見えるけど、1/144にするとこの物量のシールを全部貼るのは大変だなと。だから、商品では実物よりもマーキングの数はかなり減らしたりしています。
——その他にも金属表現が可能で、シールでありながらも薄い素材で作られたリアリスティックデカールなども取り入れましたね。
西澤 箔押しや水転写デカールのような表現ができるシールも使いだしましたね。それまでだと箔押しのシールは厚みがあったのですが、薄くてペタっと貼っても段差が出ないくらいのものにしたいという話をしていて。さらに当時はテトロンシールという半透明のシールがあったのですが、糊のせいでどうしても曇りが出てしまう。そこで、箔押しや水転写デカールのような表現が可能なシールとして使えるという条件に合う素材を探してもらって新しく採用しました。
——そのようなさまざまな挑戦がなされたVer.1.0の発売から14年が経過し、Ver.2.0の発売となったわけですが、リリースがこのタイミングになった理由を教えてください。
大久保 RGシリーズも立ち上げから15年目を迎え、商品の仕様も当時からいろいろと変わっているところがありまして。Ver.1.0も今のRGシリーズと並べるには、ちょっと表現が変わってきたというところもあり、今の考え方で作ったRG の78ガンダムが欲しいという思いがずっとあったんです。でも、それを実現できる機会がなかなかなくて。そんな中で、「ガンダム45 周年」というのはいいタイミングだと思ったので、実現した形ですね。長い目で見ると、横浜の動くガンダムの展示が始まったタイミングに合わせてRG ジオングを作って、そこからちょっと経てば「ガンダム45周年」が来るので、新しい解釈で作られたジオングと並べることができるVer.2.0をやろうという考えのもと、かなり前から開発は進めていました。
——RGの78ガンダムをどのように変えるかというのが、やはり最大の難関だったのでしょうか?
大久保 そこは、78ガンダムを担当する者はみんな頭を悩ませるところですね。ホビーディビジョンだけですでに40数体の78ガンダムが出ていますし、コレクターズ事業部やベンダー事業部、キャンディ事業部を合わせたら何百体あるんだという感じですから。ホビーディビジョンでRGのVer.2.0を作る以上は、パッと見て「これは新しい78ガンダムだよね」というのが説明を受けなくても、画像を見ただけで新しさやすごさが分かる、お客さんに伝わることを一番の大命題としてやっていました。
——先ほど、Ver.1.0はMGを1/144スケールで再現した感じがすると言いましたが、Ver.2.0はパーフェクトグレードアンリーシュド(以下、PGU)を1/144スケールサイズに詰め込んだように見えました。
大久保 デザインの段階から1/144スケールながら、ちゃんと大きさを感じることができるデザインにしましょうというのは、デザイナーさんと話をしていました。多分、PGUのような雰囲気を感じられるというのは、このデザインと密度感が影響しているんだと思います。なるべく面構成や段の見え方、凹凸の入れ方などを工夫して、ちゃんとモデルに対して影が落ちる形の作り方をしているんです。あとはディテール周りですね。今回は、いつもよりも装甲面に見える黒いパーツをたくさん配置しているんです。これは、広い面の中に小さい段差と別パーツ化された形状を入れることで、小さいパーツの周りのパーツの大きさを感じることができるというデザイン的な見せ方になっています。別パーツによって情報量が増えることで、大きさを感じ取ってもらおうという意図も含まれています。
——白い装甲部分の表現は、Ver.1.0での見せ方を踏襲したものになっていますね。
大久保 そうですね。白の部分をグレー調のツートーンカラーに見せるやり方は実物大立像で表現されたものですが、実物だと光の当たり方や影の落ち方によって全然違った色に見える。その効果は1/144スケールの全高125mmだと全然出すことができないので、成型色で光の当たり方を調整してきたんです。今回は、それをさらにデザインとして落とし込むことで、密度感がさらに増して、PGUに近い雰囲気に見えるような表現ができたのではないかと思います。
——Ver.1.0の時に比べると、ユーザーの目も肥えているので、その期待をどう超えるのかは重要な部分だったわけですね。また、シリーズが進むうちに、リアルに対する考え方や突き詰め方も変わってきたのでしょうね。
大久保 RGシリーズを続けるうちに、ガンプラのリアルへの考え方は変わっていると思います。西澤さんがやっていた頃は、フレーム構造があるのがリアルだという考え方でしたよね?
西澤 当時はそう言っていましたね。こんなフレームが内部にあって、そこに外装が付くのがリアルだという考え方をしていこうと言った覚えがあります。
大久保 78ガンダムの根本的な構造のリアルというところは、最初のVer.1.0でやっていたのですが、そこから続くうちに、いつからか「フレームがあるからリアル」というところでは面白味が足りないという話になり、もっとリアルに対する深掘りをしていこうということになったんです。僕が覚えているのは、νガンダムにメンテナンス構造を取り入れたり、フォースインパルスガンダムであれば翼に航空機の形状を取り入れるというような、部位ごとにリアルというつくりに集約していったところがあります。ひとことで「RG=リアルグレード」と言っても、年数を経るごとにリアルが変わってきたという歴史があります。
——装甲の開き方なども、最初の頃は「この立像が動くなら、ここがスライドするのだろう」というのを想像しながら設計をされていますよね。それがだんだん、飛行機のフラップが伸びて開くように、多重構造で装甲が開くような方向性に変わってきていますね。
大久保 そうですね。最初の頃は、可動範囲を広げるためと、動きとしての面白さから太モモの装甲をスライドさせていたのですが、年を追うごとに「ただ動くだけでは面白くない。動く意味を持たせましょう」ということで、最近ですとヒザのフレームが剥き出しにならないように、装甲がフレームを隠すように連動させるようなことをやっているんです。これが、いつも言っている「ガンプラの進化」みたいなところで。ただ動くだけだったものが、意味のある動きに変わってきているところが、15年シリーズを重ねてきた成果かなと思いますね。ちゃんと動かしたあとに、お客さんも納得できて、共感してもらえるところを付加することが、先ほど言った「リアル」のひとつとしてはあります。
——Ver.2.0では、ヒジとヒザの関節も単なる軸ではない構造が採用されていますね。
大久保 これも初めてチャレンジした要素ですね。組み立てやすさに加えて、工業製品として太モモとスネは別々に作れて、あとから接続される構造になると機械としての説得力を増すという考えです。そういう部分でも78ガンダムの組み立て工程が体感できるようにはしてあります。
——近年のガンプラは、HGであればデザインの再現性と可動性を両立することに力が入っていますが、RGは企画・開発者のアイデアなどが重要になるアイテムになっているという感じでしょうか?
大久保 HGの3〜4倍は大変なアイテムにはなっていますね。HGの場合は、仰られた通り、可動性と形状の再現に加えて、商品としてのポイントを1〜2個入れていくというスタンスですが、RGだとポイントを4〜5個くらい入れ込まなければならない。デザインに関しても、RGオリジナルデザインで商品化することを許可いただいているので、設定画を追いかけて立体化するだけでなく、そこから「モビルスーツに対するリアルというのは何なのか?」を考えて、面白さみたいなところを付加しなければいけない。企画を考えて、それに合ったデザインを考えるというところで、大変な部分は多いです。
——開発期間も当然ながら長くなるわけですね。
大久保 全然長いですね。普通のHGだと1年くらいですが、RGだとさらに半年くらいはもらう形になります。平均で1年半ですね。Ver.2.0に関しては、2年くらいかかっています。HGは設定画と企画書を用意して設計にまわすことで作業を進めることができるのですが、RGは新たに取りかかる要素も多いので、構造試作みたいなものを確実に用意しなければならないですから、手間も多くかかっています。
——そうした基礎要素があって、さらにVer.2.0という部分での苦労も大きかったのでしょうか?
大久保 Ver.1.0がすでにあったので、そこまでの苦労はなかったというのはあります。西澤さんがやっていたVer.1.0は、当時のホビーディビジョンができる技術を全部集約するということで、かなり実験的な作りになっていて、「この構造は初めてやります」みたいなところが多かったと思います。そこから年を重ねて、RGシリーズの作り方が根本から違うものになっていき、進化したなかでさらにその上を目指すというところでVer.2.0を作ったので。苦労という点では、立ち上げとなったVer.1.0のほうが大きかったと思います。
西澤 RGはその時代ごとに見える最高の形を毎回目指してやっている感覚はありますね。毎年、いろんなRGが出てきますが、毎回見える形が新しくなっていって、その時の本物の姿はこうあるべきというのをずっと見せつけられているような感覚があるかなと。だから、Ver.1.0もひとつの正解の形だし、Ver.2.0も正解の形だと思えますね。
——西澤さんから見て、Ver.2.0にはどんな感想を持たれましたか?
西澤 滅茶苦茶格好いいですよ。「僕がやった」と言いたいくらいです(笑)。僕がやった時からは、見せ方が全部新しくなっているとは感じますね。ユーザーの視点もそうですし、企画担当者の構え方というか、気持ちみたいなものも昔とはちょっと変わっているんだと思います。やはり、時代を経てきたというのが大きいでしょうね。当時、今ここにあるものができたかというと、多分できない。仮に出せたとしても、反応としては微妙だったかもしれない。だから、やっぱり今あるべき形なんだと思いますね。
——アプローチは時期に合わせて変化していますが、RGというブランドの根本的な考え方は変わらずという感じなのでしょうか?
大久保 そうですね。「ガンプラのリアルとは何か?」というものを考えるところは変わっておらず、ちゃんと現実感のあるモビルスーツであり、プラモデルというよりも遠い未来に作られたらきっとこういうものができるだろうという考えは、ずっと根底に持ち続けているかなと思います。
——RGシリーズ上の変化で一番大きいのは、アドヴァンスドMSジョイントが、フレーム構造として使われなくなったことにあると思います。これに対しては、企画的な制約などの影響もあったからでしょうか?
大久保 全身フレームを使っていると毎回同じような体型になってしまって、ちょっと変わった体型のものだとアドヴァンスドMSジョイントを使っても再現しきれず、逆にリアルを追えなくなるという部分があったんです。実は、このVer.2.0ではインサート成型は一切使っていないんです。インサート成型のアドヴァンスドMSジョイントを使うのがRGという考え方があったのですが、それを変えていこうと思っていて。ちゃんと意味があるところに使用する方向に変えていく。今回は、Ver.2.0用の武器セットで、ガンダム・ハンマーのチェーン部分にインサート成型を使っています。RGの開発においてインサート成型が縛りにならないようにしようということです。
西澤 ブランドを進めるうちに「インサート成型が入っているとリアル」みたいな言葉というか、イメージにどこかで変わっていたのかもしれないですね。
大久保 インサート成型がどこか縛りに感じていたところがあったので、今回は使うのをやめることで、より自由に78ガンダムのVer.2.0のあるべき姿を逆に追い込めたかなという感じですね。
——そうした、アドヴァンスドMSジョイントからの脱却も含めて、組み立てやすさも設計的には意識されているのでしょうか?
大久保 すごくみっちりと詰まった感じに見えるのですが、パーツ数はなるべく少なくするようにしています。一方で、腕だったら腕の構造をタイトにしつつも、「きっとガンダムの腕はこういう構造になっているんだ」という部分を理解しながら、「ああ、なるほど」と思いながら各部位を組めるようにはしています。それから、組みやすさに加えて、飽きずに組むことができるという要素も今回は取り入れたところでもあって。腕の動きやディテールを組み立てながら理解できるので、本当に78ガンダムを組み立てているような感覚が持てるようにしています。
——フレームと装甲の裏側のモールドが連動している感じに見えますね。また、頭部バルカン砲の表現もものすごく細かい。
大久保 その辺りはこだわったところです。バルカン砲の内部は組み上げたら見えなくなってしまうところなのですが、組んでいるときに内部の構造に納得して、楽しみながら組むことができる。構造体を組み立てるという部分を意識した結果、開発時にはいつもの倍くらいの時間をかけてディテールをたくさん入れるような感じになっています。
——Ver.2.0の内部構造の表現などは、初期のMGシリーズの考え方にも近いですね。
大久保 MGやPGをはじめ、昔の1/72メカニック・モデルなど、今までガンプラがやってきた考え方がベースにはなっています。「ガンダムの中身はこうなっているんだ」というホビーディビジョンが追い続けていたものの最新版がこれですよと。みんなが思っていること、考えていることを改めて掘り直したというところはあります。
——一方で、横浜の動くガンダムなどが実現したことで、ガンプラの可動の見せ方や考え方も変化があったりするのでしょうか?
大久保 そうですね。かなり変わりました。横浜のガンダムで特に思ったのは、ヒジやヒザのマルイチモールドのところで曲がるのが格好いいし、ガンダムらしさのひとつだというところですね。ですので、Ver.2.0もフィールドモーターを中心に曲がるというところは意識しようと思いました。お客さんも横浜でガンダムの動きを見て「これがガンダムの本当の動きだ」と認識したはずなので、そこはちゃんと踏襲しなくちゃいけないと思いました。
——Ver.2.0では、今までのアイテムからフィードバックした技術などはありますか?
大久保 お客さんからはPGUを参考にしたのではないかという質問をされたのですが、PGUからは技術的な面ではあまり参考にせず、むしろコンセプトを参考にしています。技術的な部分でいうと、RG ゴッドガンダムがアクションをウリにしていたので、そこで採用したロック機構などを取り入れて、動かしやすく、またポーズを決めやすくしていますね。
——西澤さんとしては、担当されたVer.1.0の発売から約15年が経過したわけですが、時間的な感慨はありますか?
西澤 ものすごく感慨深いですね。当時、自分の考えていた形があり、そこから時間が経ってまた新しい形が提示されたので、驚きしかないですね。
——RGの進化に関しては、おふたりはそれぞれどこがシリーズ的にはターニングポイントになったと思われていますか?
大久保 僕が外から見ていた感じだと、最近ではありますが、サザビーあたりだと思いますね。
西澤 僕はRGを担当していたのがΖガンダムやフリーダムガンダムくらいだったので、サザビーの時は担当を外れていて。実際に見て「こんな感じに変えていったんだ」と思いましたね。
大久保 デザインがかなり今風で、凹凸が多いですよね。先ほど言った影の落ち方を意識していて、さらにインサート成型はかなり絞って適材適所で使うようになっていて。ホビーディビジョンのすべてを詰め込むのではなく、サザビーに寄り添ったものの作り方をしているようには感じました。あとは、インサート成型のフレームをやめて一部のみ使うというところでは、トールギスもターニングポイントになっているかもしれないですね。
西澤 その頃から「今のリアルとは何か?」というのをちゃんと考え始めたんじゃないですかね。いろいろと変わりつつも、今もRGというブランドが続いているというのは嬉しいですよね。
——西澤さんがVer.2.0を見て驚いたポイントはありますか?
西澤 やっぱり、「コア・ファイターを曲げる」という発想ですね。なかなかそこにはいかないので。
大久保 僕も企画の段階では、可動性を重視したコア・ファイターがないタイプと、コア・ファイターが入った可動が制限されるタイプの胴体を別売りにするようなことを言っていたのですが、設計が「そんなぬるいことを言うな」と。コア・ファイターが入った状態でも胸が曲げられるようにこちらに任せてほしいと言われて。その後、コア・ファイターを避けながら胸を曲げるような構造を考えたのですが、どうにも自然な曲がりにならないなという話になっていたんです。その2週間後に「コア・ファイターを曲げます」と設計が言ってきたんです。「コア・ファイターは曲がらないだろう」と思っていたのですが、何度か動かす案が出てきて、1ヵ月後には自然な胸の曲げに連動して動くコア・ファイターができ上がったという感じです。
——他のブランドに比べて、RGは各担当ごとのプレッシャーは大きいのでしょうか?
西澤 大きいと思います。自分もブランドを立ち上げましたが、当時でいえばガンプラの最高峰はPGで、1/60スケールということでサイズは違っていたのですが、RGでは「これがガンプラの最高峰であるべき」みたいな立ち位置に持っていこうと思っていましたし、ブランド的なバランスはどこに置くべきか考えていて。結果的には「1/144スケールの最高峰」という方向性を当時決めていきました。
大久保 「最高峰」といわれると、いつも「本当にこれが最高峰なの?」という思いが付きまとって、大体それがプレッシャーになるんですよね。
西澤 開発時にある技術は、とにかく全部使う。ガンプラで過去に使われてきた技術、新しく構築された技術など、その時の最高峰を全部集めてやろうというやり方をしたのが、このブランドの立ち上げの考え方だったのですが、ではそのスタイルでずっと続けられるかといえば、毎年そんなに新しいことは起きないですよ。ガンプラの成長みたいなものと一緒に、都度都度新しくなっていったものを、また新しい形で作ったというイメージに近いかもしれないですね。
大久保 最高峰は、翌年には最高峰じゃなくなってしまうので、常に更新していかないといけない。
西澤 そういう意味では、常に新しいものを追いかけている感じかもしれないですね。
——ちなみに、来年は「ガンプラ45周年」になりますが、その時にVer.2.0を出すという選択肢はなかったのですか?
大久保 僕らのコンセプトというか、ラインナップの組み方に関していうと、周年だから新しい78ガンダムを作らなくちゃいけないというルールは実はなくて。たまたま作っていた企画に近しいものを周年に合わせて出していくというのがほとんどです。今回は、横浜の動くガンダムの展示が「ガンダム45周年」に終わるということで、そこから間を空けて新しいガンダム像としてのVer.2.0を出すよりも、やはり45周年のタイミングがいいだろうということで決まりました。もちろん、来年の「ガンプラ45周年」に関しては、78ガンダムではないですが、それに見合う新しいガンプラをお見せする予定です。
——本日はありがとうございました。
(2024年7月、バンダイホビーセンターにて収録)